こんにちは。
PHLUXXのマスタリングエンジニアことMASSです。
先日、アナログ盤をリリースするためにカッティング工場に見学しに行ってきたのでその様子をお伝えできればと思います。
以前にも2回ほどアナログ盤のリリース向けのマスタリングを行ったことがあるのですが、なかなか立ち会う機会がなく、実りが多い1日となりました。
場所は東洋化成さん。
日本で唯一、アナログ盤のプレスを行っている工場です。
そもそもカッティングとは?
カッティングとは、アナログ盤を作るためにラッカー盤に溝を掘っていき、プレス用のスタンパーを作る作業です。
溝を金型に記憶して、大量生産するための型を作っていくということです。
(定番のノイマン製カッティングマシンです。)
こんな感じの機械で溝を掘っていきます。
レコードカッティング立ち会いの流れ
まずはデジタルデーターで音を確認していきます。
今回はwavで納品したので、僕が仕上げたまんまの音が流れます。
流石にスピーカーの違いで違和感を感じるようなことはありませんでした。
(プレイバックのDAWはSEQUOIA。RME FireFace UFXから、Lavry GoldのDAコンバーターで再生をしていました。)
続いて
カッティングエンジニアさんがコンソールで調整をします。
今回は大きく調整をすることはなかったのですが、場合によっては低域や高域を落とさざる得ないことがあるそうです。
(ノイマンのコンソール。お宝です、、!)
カッティングの音を聞きながら確認
実際にレコードで再生したときの音を聞きながら違和感がないかを確認していきます。
マスタリングエンジニアとしてカッティングの現場で感じたこと
外周のときは思ってたよりも変化しない
レコードは外周から内周へ針が流れていき、外周の方が広い周波数でクリアに集音できる仕組みになっています。
一番外周をカッティングしているときに感じたのは、思いの外大きな変化がないということです。
よくアナログ盤の温かみのある音というような表現をしますが、大きな変化を期待していると肩透かしを食らうかもしれません。
その上で、感じた音の変化を以下に書いておきます。
ベースとキックが少し手前に張り出してくる
もっと手前に出てくる印象があったのですが、そうでもありませんでした。
レコード音源でキックとベースがぐっと前に出てくる物は録音段階での音作りだといえます。
そもそも記録媒体がオープリールだったり、アナログコンソールでミックスをしていたりするので、そこの部分の差が大きいように感じます。
ハイハットや金物類が落ち着いた印象になる
10k付近のトランジェント(音の鋭さ)が落ち着いた感じを受けました。
パキっとしていた音が少し奥に行って馴染んだ印象です。
シンセサイザーやオルガンの5k付近が落ち着いた印象になる
これについても同様で、トランジェント(音の鋭さ)が落ち着いた感じを受けました。
ミックスで立ち上がっていた部分がやや滲んだような印象を受けました。
リバーブの質感が荒くなり、存在感が増す
いわゆる昔のビット数が低いデジタルリバーブ(通じるかな、、?)のような質感になりました。
スーッとしていたリバーブが少しザラザラした質感に変化をします。
内周にいくにつれてレンジが狭くなり歪んでいく
これはレコードのメディアの特性上仕方がないことなのですが、歪み具合がいやらしくないので意外とそういうものとして聞けてしまいます笑
最後の曲はいわゆるレコードの音という感じで、歪みやノイズが少しずつ増えていきます。
レコードを持っている人からすると常識だと思いますが、
外周から内周にいくにつれてレンジが狭くなりノイズが増えていきます。
ここで一つ注意をしておきたいのは、
カッティングの変化よりも、内周に行ったときの変化の方が遥かに大きいということです。
ですから、アナログ盤をリリースするときには曲順に拘った方が良いと思います。
推したい曲が2曲あれば、その2曲はA面B面の一曲目(外周側)に持っていくべきだと感じました。
カッティングエンジニアさんに音作りについて聞いてみた。
作業がひと段落したときに、カッティングエンジニアさんにどういったことをアナログ盤リリースに向けて気をつけるべきかを質問してみました。
(エンジニアさんに記事にするときに名前を出して良いか確認をし忘れてしまいました、、)
Q.マスタリングのときに気をつけることはありますか?
A.特にありません。それぞれの行程でベストを尽くすのが一番良いと思います。
ただ、高域の持続音が多い場合はコンソールでカットをしてからカッティングマシンに信号を送ることがあります。
なるほど、、、確かに、根本的に音は変わってしまうことは無いから、下手にカッティング時のことを想像するよりも仕上げ段階で完璧に仕上げておくことが大切ということなんですね、、。
Q.具体的にはどのぐらいの高さに弱いのですか?
A.10khz以上の音が続いてしまうと、カッティングマシンのコイルが焼き切れてしまうことがあります。
そのため、耳とデーターで確認して調整せざる得ない場合は帯域をカットすることがあります。
EDM系の音楽は注意が必要かもしれませんね。キラキラ系の高域に広がるシンセサイザーが前面に張り付いているような音楽だと、高域のカットをせざる得ないことがあるかもしれません。
Q.適正レベル(音量)はどの程度ですか?デジタル面でゲインを調整する必要はありますか?
A.適正レベルは特にありません。クリッピングしていなければ大丈夫です。
ただ、カッティング時にアナログ段階で音量調整をしています。
マスタリング時点で音量を稼ぐ意味がないということですね。
音作りとしてのリミッターを挟むのは良いと思いますが、単純に音圧を稼ぐような形にするとダイナミックレンジが減る分ちょっともったいないことになるかもしれません。
アナログレコード(LP)を製作するときに気をつけたい3つのこと!
個人的に感じたことと、エンジニアさんの話を聞いて感じたことをまとめます。
その1、曲順に気をつける!
基本的には音がクリアに集音できる外周に推したい曲を入れましょう!
その2、制作時はカッティングの後の音を気にしすぎない!
下手に仕上がりを想像するよりも、目の前のベストを作っていきましょう。
バランス自体が大きく変化するわけではないので、あまりカッティングすること自体を製作段階では気にする必要はなさそうです。ただ、超高域に偏った音作りにすると印象が変わってしまうことはありそうです。
(そもそも、超高域に偏っていると耳に刺さってしまいますけどね、、)
その3、カッティングに送る段階で音圧を上げるかどうかは慎重に。
結局カッティング時にアナログでボリューム調整をしていくので、無理に音圧を稼ぐ必要はないと思います。音作りの意味以外で、いたずらにリミッターをかけすぎるとのっぺりしたものが仕上がってしまう可能性があるかと思います。
アナログ盤(LP)をリリースされる皆さんのお力になれれば幸いです。
もしも、よくわからなかったり自信がないときには、お気軽にご相談ください!
全力でサポートさせていただきます。